介護が必要な家族に食事を用意しても「なかなか食べてくれない」と悩んでいませんか?
「食事内容を工夫して、好みの献立を作ったはずなのに…」と不満に感じるでしょう。
この記事では、なかなか食が進まない高齢者にも喜ばれる「介護食」についてご紹介します。
そもそも介護食とは?

介護食とは、かむ力や飲み込む力が衰えてきた方でも食べやすいように加工された食事のことです。
老化が進むと、歯茎が衰えて、かみ合わせが悪くなってしまう高齢者は少なくありません。
かむ力が低下したり咀嚼回数が減ったりして、食事を自然に食べるのが難しくなるのです。
食べにくくなると、無理やり飲み込むことによる誤嚥のリスクが高まってしまいます。
体への負担が大きくなり、食欲自体がなくなってしまうという方もいるほどです。
そのような高齢者に向けて、無理なく食事を楽しめるようにしたものが、介護食になります。
介護食を用いることで必要な栄養を補うことができ、筋力維持や気分の安定にも繋がるでしょう。
【一覧表】4種類の介護食

上記の表のように、介護食は「やわらかさ・食材の細かさ」によって、4つの種類に分けることができます。
それぞれの特徴を一言で表すと、以下のとおりです。
- 刻み食:細かく刻んだ食事
- やわらか食:細かく刻んだうえでやわらかくした食事
- ムース食・ゼリー食:ペースト状にして固めた食事
- ミキサー食:液状にした食事
食べる方の飲み込む力や、かむ力に合わせて、介護食を選ぶことが大切です。
特に、歯を支える力が弱くなると、やわらかいものを好むようになります。
本人の好みを聞きながら、食材の大きさ・やわらかさを調節しましょう。
たとえば、「だし巻き卵か、スクランブルエッグだと、どちらが食べやすい?」などと聞くと、基準を理解しやすくなります。
また、かかりつけの歯科医や、ケアマネージャーに食事内容について相談してみるのも大切です。
弱い力でもかめる「刻み食」
こんな方にオススメ
- 硬いものをかみ砕きにくい方
- 今までの食事が飲み込みにくい方
- やわらかいごはんを好む方

刻み食は、介護食の区分では『容易にかめる』に該当します。
通常の食事を細かく刻んでいるため、かむ回数が少なくても飲みこみやすいのが特徴です。
食材の大きさは、みじん切りのように細かいものから、1〜2cm程度のものまであります。
食べる方のかむ力に合わせて、大きさを調節しましょう。
ただし、細かく刻んだ食材は、歯の隙間や舌の裏に入りこみやすいため注意が必要です。
そのため、刻み食を食べた後は、しっかりと歯磨きを行うのが大切になります。
また、刻まれた食事が気管に入り込むと、むせてしまい、誤嚥に繋がるリスクがあります。
唾液量が少ない方や誤嚥が心配な方は、とろみの有無や食事に含まれる水分量も意識してみるとよいでしょう。
歯茎でつぶせる「やわらか食」
こんな方にオススメ
- 刻み食だとむせやすい方
- 少しでも固形食を味わいたい方
- 唾液が少なく、誤嚥が心配な方

やわらか食は、介護食の区分では『歯ぐきでつぶせる』に該当します。
ソフト食とも呼ばれ、食材を煮たり茹でたりすることでやわらかい状態にしたものです。
歯茎や舌で簡単につぶせるため、かむ力が衰えてしまった人でも手軽に食べられます。
やわらかさのバリエーションが豊富で、歯ぐきでつぶせるほどの食感を残したものから、茶碗蒸しのように舌の上でほぐれるものまで幅広いです。
また、やわらか食はとろみをつけることが多く、刻み食よりも舌触りがなめらかなのも特徴になります。
唾液が少ない方や誤嚥の心配がある方でも、スッと飲みこむことが可能です。
舌でつぶせる「ムース食・ゼリー食」
こんな方にオススメ
- 咀嚼する力がほとんどない方
- 口内で食材を飲み込みやすくまとめられない方
- やわらか食では誤嚥のリスクが心配な方

ムース食・ゼリー食は、介護食の区分では『 舌でつぶせる』に該当します。
食材をミキサーでペースト状にしてからゼラチン・寒天などで固めたり、口当たりがなめらかなムース状にしたものです。
やわらか食に比べて、食感がよりなめらかで、食材の形がほどんどないのが特徴になります。
プリンのように容器に入ったものから、ハンバーグや焼き魚など食材の形を再現したものまで、盛り付け方は様々です。
ペーストの状態だと見た目がさびしくなりやすいため、食欲を失う方もいらっしゃいます。
少しでも通常の食事に見た目を近づけることで、食欲が失われないような工夫が大切です。
かまなくてよい「ミキサー食」
こんな方にオススメ
- やわらか食・刻み食だとむせやすい方
- 歯茎や舌で食材をつぶすのが難しい方
- 消化・吸収する力が衰えている方

ミキサー食は、介護食の区分では『かまなくてよい』に該当します。
名前のとおり、ミキサージュースのように、食材をスープ状にしたものです。
かむ力・飲み込む力がほとんどない方でも、食事で栄養を吸収することができます。
ミキサー食は水分が多く、誤嚥を予防するためにとろみをつけているのが特徴です。
やわらか食に比べると、より口当たりがなめらかで、食感がほとんどありません。
やわらか食でもむせやすい方や、飲みこむ力・かむ力がほとんどない方に向いています。
ただし、ミキサー食は冷めやすく、時間が経つと食材が硬くなりやすいので気をつけましょう。
介護食に向いている食材・向いていない食材は?

やわらかさを重視した介護食には、向いている食材・向いていない食材があります。
高齢者が食べやすい食材 :水分が多くやわらかいもの
唾液量が少ない高齢者の場合は、適度な水分がある方がかみやすくなります。
力を入れずにかんでも、かむ回数が少なくても手軽に食べられるのがポイントです。
以下のような食材は、介護食に向いています。
- おかゆ
- 卵料理
- うどん
- にゅうめん…など
特に、水分を含みやすいお米や麺類、やわらかく硬さを調節しやすい卵料理がオススメです。
おかゆは、水分を足して煮込む時間を増やすだけで、手軽にやわらかさを調節できます。
うどんはコシがあるものより、食感がやわらかい種類の方が食べやすいです。
さらに、キッチンばさみで短くカットすると、かむ力が弱い方でも飲み込みやすくなります。
高齢者が食べづらい食材 :繊維が多くて硬いもの
繊維質の多い食材は、便通改善や健康な腸内環境を保ちたいときには欠かせないものですが、高齢者にとっては食べづらいものが多いです。
特に、煮込んでも食感が残りやすい根菜・かみ切りにくい甲殻類などは、食べるのに苦労します。
以下のような食材は、介護食に向いていません。
- ごぼう
- たこ・いか
- れんこん…など
介護食を作るときのポイント

介護食を手作りする場合、「せっかく作ったのに、食べてもらえない…」と悩みがちです。
この章では、初めて介護食を手作りする場合に意識すべきポイントをご紹介します。
介護食を作るときのポイントは以下の3つです。
- 食べやすい食感を意識する
- 少量で栄養バランスを満たす
- 見た目で食欲を刺激する
食べやすい食感を意識する
食べる方の状態によって、食べやすい食感は異なります。
食感を意識して作ることで、かむ力の維持や唾液の分泌にもつながるのです。
たとえば、肉や魚、野菜など、冷えると硬くなりやすい食材は、煮る・蒸すなどで加熱すると良いでしょう。
加熱によってやわらかくなった食材は口のなかでほぐれやすく、かむ力が弱っていても飲み込みやすいです。
加熱でなくとも、包丁や綿棒で叩いたり、すり鉢・すりこぎを使って軽くつぶしたりするだけでも、口のなかでほどけるようなやわらかい食感に仕上げることができます。
また、サラッとした水のような食材には、とろみ粉を使ってとろみをつけたり、ゼラチンなどでゼリー状に固める方が飲み込みやすくなるため、冷める前にひと手間を加えてみましょう。
少量で栄養バランスを満たす
量を食べられない高齢者の場合、1日に必要な摂取カロリーが十分に満たないことも珍しくありません。
なるべく少量の食事でもカロリーを補えるように、油分や糖分を付け加えられないかを考えてみましょう。
たとえば、魚を選ぶときにヘルシーな赤身よりも脂がのった白身を選んだり、油分の多いあいびき肉を使用したりするのは効果的です。
他にも、卵焼きを作るときに、上白糖やバターを使ったりすると、量を増やさなくても簡単にカロリーを増やせます。
また、水を使う代わりに、牛乳や豆乳、生クリームなどを用いて調理するのもオススメです。
見た目で食欲を刺激する
やわらかい食材や食事内容にこだわると、見た目の鮮やかさが減ってしまいがちです。
特に、食材をスープ状にするミキサー食は、どの食事も同じ形状になることが少なくありません。
食欲をそそらない見た目のせいで、介護食を食べてもらえなければ本末転倒です。
対策としては、盛り付ける食器を華やかな柄にしたり、型抜きで食材の形状を彩ったりする方法があります。
また、ミキサーにかける前の食材を見せて、食べる方のイメージをふくらませるのも有効です。
レトルト介護食の選び方

介護食を手作りすると、通常の食事よりも工程が増え、調理に時間がかかります。
時間がないときや、手作りするのが大変なときは介護食のレトルトを利用してみましょう。
しかし、レトルト介護食といっても、区分に合わせたさまざまな種類があります。
味つけや料理のバリエーションもたくさんあるため、「何を選べばいいの?」と悩んでしまう方もいるのではないでしょうか。
この章では、レトルト介護食を選ぶポイントを3つご紹介します。
- かむ力・飲み込む力に合わせる
- 好みの料理や味付けを探す
- アレンジしやすいかを確認する
かむ力・飲み込む力に合わせる
レトルト介護食を選ぶ第一条件は、食べる方のかむ力・飲み込む力に合わせることです。
食が進まない高齢者と一括りに言っても、かむ力・飲み込む力は人それぞれ異なります。
刻み食、やわらか食、ムース食・ゼリー食、ミキサー食のどれが最も適しているかを考えましょう。
食べる方の状態に合わせることで、食欲が減るのを防ぎ、必要な栄養を補いやすくなります。
やわらかさの区分と食べる方の状態を照らし合わせながら、少しずつ試してみましょう。
好みの料理や味付けを探す
2つ目に、レトルト介護食の中で、好みの料理や味付けを探すのも大切です。
レトルト介護食には、主食となるご飯だけでなく、以下のように様々な種類があります。
- 魚の煮つけ
- あんかけ
- 肉じゃが
- ハンバーグ
- ほうれん草のペースト
- かぼちゃのポタージュ
上記のように、レトルト介護食では、和食・中華・洋食などの幅広い料理が用意されています。
味付けも料理によって違うため、本人が好みやすいものを選ぶのがポイントです。
好みの味付けを見つけることができれば、1度の食事で食べる量が増えるかもしれません。
食べる楽しみにもつながるため、通常の食事で好きだった味付けや料理を探してみましょう。
アレンジしやすいかを確認する
3つ目のポイントは、手軽にアレンジできるかという点をチェックするのがオススメです。
レトルトというと温めてそのまま食べるイメージがありますが、毎日続けると飽きてしまうことも。
そのため、他の食材を加えて味に変化をつけたり、食感を変えたりしやすいものを選ぶことが重要です。
たとえば、ご飯の上にかけて丼ものにできるおかずや、とろみ剤を加えて食べやすくできるものなどがあります。
介護の食事を楽しくする工夫7つ

食が進まない場合、栄養を補給するために「なるべく多く食べてほしい」と焦ってしまう方もいるのではないでしょうか。
しかし、無理に食事をすすめると誤嚥につながるケースも少なくありません。
最後の章では、介護の食事を楽しくする工夫について解説します。
- 気分に合わせたメニューを出す
- 会話しながら食事を楽しむ
- 家族で似たメニューを共有する
- 本人が食べやすい食器を使う
- 座るときの姿勢を調節する
- 間食で栄養を補助する
- 食事後は口の中を清潔に保つ
気分に合わせたメニューを出す
食事の好みは、その日の体調や気分によって、食べたいものが違う方も多いでしょう。
完璧に気分に合わせるのは難しいですが、少し希望を叶えるだけでも食が進むことがあります。
また、体調が優れないと、思うように食事がとれないこともあるでしょう。
特に、高齢者の場合は持病を抱えていたり、天候によって気分が変わったりと、日によって体調が変わることが多いです。
体調が優れない日には、少量で栄養を補いやすいように、メニューを柔軟に調整してみましょう。
会話しながら食事を楽しむ
テレビを見ながら食べるのではなく、食事の好みや料理の感想を交えながら会話をしてみましょう。
普段は口数が少ない方でも、会話をしている内に、味の好みなどをポロッと話してくれることがあります。
特に、ミキサー食やムース食などは食材の形が残らないため、味のイメージが沸きにくいものです。
食事をすすめる前に、使った食材や味付けを伝えることで、食べる方がイメージを掴みやすくなります。
家族で似たメニューを共有する
一人で食事をしていると、会話がなく、淡々した食事になりがちです。
こうした孤食を続けていると食事の時間が単調になり、食事を作業のように感じてしまう方もいます。
夕食だけでも家族と一緒に食べたり、家族の誰かと一緒に食べたりしてみてください。
特に、大勢で食事をとるのが楽しいという方の場合、食べる量が自然と多くなることもあります。
また、家族の食事と似たメニューで介護食を作ることも「同じものを一緒に食べている」という満足感につながるでしょう。
本人が食べやすい食器を使う
高齢になると、箸を動かしにくくなったり、陶器を持つのが難しくなる方も少なくありません。
思うように食事を口に運べないことがストレスになり、食が進まなくなる方もいます。
対策として、介護用のスプーン・箸・フォークを使ってみるのがオススメです。
自分のペースで食べられるため、食事に対して前向きになる可能性があります。
また、ベッドで食事をとる場合は、ベットの上に机やお盆を設置してみてください。
疲れたときに器を置くことができるのに加え、食事をこぼすのが心配な方にも喜ばれます。
座るときの姿勢を調節する

高齢になると、ベットで寝たまま、椅子にもたれたままの体制で食事をとる方もいます。
しかし、体勢によっては飲み込みにくく、誤嚥を引き起こすリスクがあるのです。
たとえば、椅子に座る方は、背もたれに腰をつけて足裏を床につけた体勢が食べやすいです。
また、ベッドで食べる際は、枕やクッションを背中に当て、45度~80度の角度に調整しましょう。
さらに、ひざの裏に薄いクッションを挟むと、重心が後ろにかかりやすく、より安定します。
間食で栄養を補助する
あまりに少食で、摂取カロリーや栄養が十分に補えないときは、小まめに間食を取り入れてみましょう。
「子どもの頃は、おやつの時間が何より楽しみだった」という高齢者も多くいます。
間食では、プリン・饅頭・チョコレートなどのお菓子や、甘い味のプロテインドリンクなど、気軽に楽しむのがポイントです。
また、少食の場合は、1品で多くの栄養を満たせるように、複数の食材を使ってみてください。
おじや・シチュー・煮物など、複数の食材を使うメニューは、1品でも多くの栄養を補給しやすいです。
食事後は口の中を清潔に保つ
高齢者にとって、口の中の細菌が誤嚥されると、誤嚥性肺炎になる可能性が高まります。
食後に口腔ケアをすることで、唾液の分泌もスムーズになるため、食欲増加にも効果的です。
ただし、食事を終えて満腹になると、ウトウトと眠気を感じやすいですよね。
本格的に眠ってしまう前に、声かけをしながら歯磨きを行ったり、入れ歯をケアしたりする必要があります。
【まとめ】食べる力に合わせた介護食を選ぼう
この記事では、介護食について丁寧に解説しました。
介護食は、かむ力や飲み込む力が衰えてきた方でも食べやすいように加工された食事のことです。
それぞれの特徴を一言で表すと、以下のとおりです。
- 弱い力でもかめる「刻み食」
- 歯茎でつぶせる「やわらか食」
- 舌でつぶせる「ムース食・ゼリー食」
- かまなくてよい「ミキサー食」
かむ力・飲み込む力に合わせて、食べやすいやわらかさを意識する必要があります。
また、少量でも栄養バランスを補いやすい工夫や、見た目で食欲を刺激することも大切です。
介護食を手作りするのが難しい場合は、レトルト介護食も充実しているため検討しましょう。
はじめたばかりでは難しいことも多いと思いますが、この記事を参考に少しずつ慣れていただけると嬉しいです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。