いきなりですが、ゲームコントローラーの「ブルブルッ」という振動を体験したことはありますか?
この記事では、振動を生み出すゲーム機の部品などを製造する企業「アルプスアルパイン株式会社」の新規事業を紹介します。
その新規事業とは、視覚障害者であっても振動によって直感的に進む方向を理解できる「方向認知デバイス」のことです。
方向認知デバイスの特徴や開発者の思い、工夫している点などを解説しますので、ぜひご覧ください。
アルプスアルパイン株式会社とは?
アルプスアルパイン株式会社とは、1948年に創設された歴史の長いメーカー企業です。
2023年3月時点で、従業員数の規模は29,926人という大きな組織になっています。
主な事業として挙げられるのが、部品を製造するコンポーネント事業です。
業界トップレベルの品質と充実した製品ラインナップを誇っており、様々な市場でお客様に喜ばれています。
例えば、欧州の高級自動車外車のハンドル操作部には同社の製品が使用されているのです。
これまでに培った高い技術力をもとに、グローバル展開を推進しています。
他の事業は、センサ・コミュニケーション事業とモジュール・システム事業の2つです。
センサ・コミュニケーション事業では、多くの分野で高まる予防安全のニーズに応えています。
自動運転技術に貢献するセンサや物流資材を遠隔から監視できるシステムなどを展開しているのです。
また、触れずとも反応するエレベーターのボタンを見たことがある方は多いのではないでしょうか?
モジュール・システム事業の一例として、エレベーターのような非接触検知を電波式センサによって実現しています。
企業理念に「人と地球に喜ばれる新たな価値を創造します」とあるように、同社は今後も安全に配慮した形で様々な社会課題を解決していくでしょう。
「感触」を追求したハプティック®
アルプスアルパインは様々な電子部品を作っていますが、なかでもとりわけ操作スイッチ部品は同社が特徴を持つ領域です。
みなさんが普段なにげなく使っている電気製品、パソコン、ゲーム、自動車などで、知らないうちに触れていることがあるかもしれません。
そんなスイッチ部品の最新型がハプティックです。ハプティックは自由に触感を生成できるスイッチです。
長くスイッチ操作の確実性や心地よさの追求を続けてきたアルプスアルパインならではの技術と言えるでしょう。
現在ハプティックは自動車の操作スイッチやゲームコントローラーなどに搭載されています。
以降の章では、ハプティックを活用する形で作られた同社の新規事業を紹介しますので、ぜひご覧ください。
※ハプティックはアルプスアルパインの登録商標です。
方向認知デバイス(試作品)とは?
ここから、アルプスアルパイン株式会社の新規事業である方向認知デバイス(試作品)について紹介します。
方向認知デバイスとは、視覚障害者に対して振動で直感的に方向を伝える機器です。
現代では、スマホなどITを活用して視覚障害者をサポートする商品やサービスが増えています。
しかし、視覚障害者が知らない場所に出かけるのは、まだまだ難しいのが現状です。
例えば、スマホの地図案内で「北に200m進んでください」と言われても、北がどちらの方向か分かりません。
また、歩いている間も、真っ直ぐ進めているかどうかが分からないため不安です。
そのような悩みを解決するのが、方向認知デバイスです。
これは、先に紹介したハプティックという感触部品を活用し、視覚障害者に直感的に進む方向を振動で伝えるものです。
方向認知デバイスは、帽子の形をしており、裏面には一定の間隔でハプティックが7つ設置されています。
頭の方向が変わったタイミングで、7つのハプティックのうち1つが振動することで進むべき方角を伝えられるのです。
つまり、方向認知デバイスは、視覚障害者や高齢者が失った認知機能を最新のテクノロジーで補完する製品と言えるでしょう。
現段階で方向認知デバイスは試作品であるため、協業できるパートナー企業様を募集しています。
アルプスアルパイン株式会社はハードウェアに強みを持っているため、ソフトウェアに重点を置いている企業様はぜひご連絡ください。
開発時に工夫していること
方向認知デバイスの開発者である鈴木さんは、利用者の使いやすさにフォーカスして試作品の開発を進めています。
例えば、振動のタイミングや長さ、周波数など、利用者が使っていて煩わしさを感じないように工夫しているそうです。
テクノロジーを活用する新規事業開発で特に難しいとされるユーザー体験を試作品で追求しています。
ベストコンプロマイズと呼ばれるように、実現したい未来と実現可能性を最も上手く融合させられる点を見つける作業です。
鈴木さんが利用者目線で開発する背景には、新規事業特有であるニーズの不確実性があります。
新規事業開発では、想定ユーザーと違うユーザーから人気が出るという事例は少なくありません。
方向認知デバイスは視覚障害者をターゲットとして開発していますが、もしかすると視覚障害者と関係のない分野で話題になる可能性もあるでしょう。
具体例として、オリエンテーリングという地図とコンパスを用いて山の中にあるチェックポイントに向かって走るスポーツがあります。
このような方向感覚を保ち続ける必要があるスポーツにおいて、方向認知デバイスが導入されるかもしれません。
他にも、霧の中で登山をしても遭難せずに歩くことができたり、方向音痴が治ったりと様々な分野で活用される可能性があります。
このように新規事業では、どのユーザーから評判を得られるかを初期の時点で断言できません。
そのため、ユーザーの利便性を追求することは、新規事業が成功する確率を底上げできるのです。
開発担当者が事業にかける思い
成功するかどうかが不明確な新規事業では、開発担当者が熱量を持ってやり続けられることが重要です。
そのため、新規事業の資金調達時などには「なぜ、あなたがその事業を立ち上げる必要があるの?」というモチベーションの源泉を問うことがあります。
その点において、開発担当者である鈴木さんは約10年前に視覚障害者として難病の網膜色素変性症が発覚したことをモチベーションとしています。
進行性で止められないため、将来の不安を払拭したいという強い当事者意識を持って事業開発に臨んでいます。
また、鈴木さんは「人類の役に立つ仕事がしたい」と話していました。
世の中の役に立っていなくても売れている商品というのは一定数あるでしょう。
しかし、長期的な目線で見た際に、人類の進歩に貢献できるような仕事をした方が社会的な意義は大きいです。
実際に、方向認知デバイスはESGの領域をカバーしており、社会貢献の色が強いと言えます。
つまり、視覚障害者の悩みを解決するという方向認知デバイスには、鈴木さんの強い思いが込められているのです。
今後の展望
人類の進歩という視点から新規事業を構築する鈴木さんにとって、方向認知デバイスはどのようなゴールを目指すものになるのでしょうか?
鈴木さんは「方向を認知できなくなった方の認知能力を補完するデバイスをつくりたい。」と話します。
人類の歴史の中で、欠落した能力をカバーする技術は多く生み出されてきました。
歩く能力を失った人を支える杖や、視力が低くなった人を補助するメガネもその一例です。
200年前は単純な遠視であっても障害として扱われていました。
しかし、現在ではメガネをかけていたり、コンタクトを付けていたりする人を障害者とは言いません。
つまり、何らかの認知能力が欠落しても、技術によってサポートできれば障害ではなくなるのです。
そのため、視野が欠損しても問題なく歩ける未来を目指して、鈴木さんは方向認知デバイスの開発を続けています。
最終的な完成イメージは、「天空の城ラピュタ」に登場する飛行石を使った羅針盤のように、対象物の位置を常に把握できるテクノロジーだそうです。
視覚障害者の方にとって、私物をどこに置いたのかを正確に覚えておくことは簡単ではありません。
テクノロジーによって私物の場所が分かるようになれば、位置を覚えられない悩みは解決されるでしょう。
そのような未来を実現するために、方向認知デバイスでは既存の技術を用いてニーズを検証しているのです。
最後に、鈴木さんは単一で商品化するというよりも物体認知など他のソリューションと組み合わせる可能性を考えているため、パートナー企業様を探しています。
以下のフォームからパートナー提携の申請を送ることができるため、興味を持った企業様はぜひお気軽にご連絡ください。