この記事は、以下のような悩みを持つ方にオススメです。
- ヒヤリハットの提出を求められたけれど、書き方が思い浮かばない
- 定期的に報告しているけれど、ネタ切れになって困っている
- 他の事業所では、どんなヒヤリハットの報告があるのかを知りたい
ヒヤリハットは重要と言われていますが、実際にどれくらい職場全体で共有できているでしょうか?
介護現場では目の前で起きていることの対応に追われて、ヒヤリハット報告まで手が回らないこともあるでしょう。
今回は、ヒヤリハット報告がなぜ必要なのか?どのように書いたらいいのか?を例文を踏まえて紹介します。
最後には、ヒヤリハットを継続的に見つける方法についても解説しますので、最後までぜひご覧ください。
ヒヤリハット報告はなぜ必要?
そのような危険な場面に遭遇した場合、ヒヤリハット報告をしなければならないという義務はありません。
しかし、事故に繋がりかねない事例を共有することによって、どのような点に注意して介護をする必要があるのかを把握することができます。
例えば、「気が付かなければ転んでいたかもしれない」というように「〜かもしれない」という事例を頭に入れておくことで、重大な事故を未然に防げるかもしれません。
つまり、今後は危険な状態にならないようにするために、あらかじめ過去の出来事から学んでおくことが重要なのです。
ヒヤリハットを書く3つの目的
ヒヤリハットを書く目的は、以下の3つです。
- 重大な事故を防ぐため
- 介護の質や技術を上げるため
- 家族とのトラブルを避けるため
ヒヤリハットを書く目的の1つ目は、「重大な事故を防ぐため」です。
ハインリッヒの法則にもあるように、1つの重大事故の背後には29件の軽微な事故が隠れており、さらにその背後には300件もの事故寸前の出来事(ヒヤリハット)が隠れているという法則があります。
重大な事故の予防には、ヒヤリハットの時点で気づき、対策を練ることが重要です。
2つ目に、ヒヤリハットを書くことは、「介護の質や技術を上げること」にも繋がります。
介護は人によって気を配るポイントが違い、教科書通りにはいかないため経験がものをいう職種でもあるからです。
これは単に経験年数を重ねれば身につくものではなく、ちょっとした変化に対する気づきが必要になります。
ヒヤリハット報告で他スタッフの気づきを共有することで、同等の経験を積むことができるでしょう。
3つ目の目的としては、「家族とのトラブルを避けるため」に重要なのです。
日頃から利用者のご家族と状況を共有しておくことによって、リスクに対してどのように対応したかを伝えることができます。
ある日突然、大切な家族が怪我をして帰ってくると、施設にクレームを入れるかもしれません。
しかし、「今日は危険な場面がありましたが、このように対応しました」と日頃から説明しておくことで信頼関係を築くことができるでしょう。
ヒヤリハット報告をためらうときはメモでいい
- ヒヤリハット報告の重要性は分かっていても、「事故にならなかったから報告するまでもないか」と判断してしまうことはないでしょうか?
- または、ヒヤリハット報告が頻繁にされていない環境であれば、「報告することで叱られてしまうのではないか」と不安を抱いている方もいるかもしれません。
- そもそも、ヒヤリハット報告書自体の作成が面倒で後回しになってしまっている場合もあるでしょう。
様々な要因は考えられますが、「小さなミスを見逃すことで重大な事故に繋がりかねない」という危機感を持って、なるべくヒヤリハット報告を上げることが大事になります。
きちんとした書式で書かなければいけないという概念にとらわれず、気づいたことをメモに残すようにしましょう。
ヒヤリハット報告の書き方
ここでは、内容を見ただけで誰にでも伝わるヒヤリハット報告の書き方を紹介します。
発生した出来事を他人に説明するときによく用いられるのが、5W1Hです。
5W1Hとは、情報を正確に伝わりやすくするフレームワークのことを言います。
ヒヤリハット報告を書くときのポイントは、以下の3つです。
- 短い文章で簡潔に
- 事実をそのままの形で
- 専門用語や略語、施設独自の言い回しは使わない
このように、誰にでもその状況が想像でき、分かりやすく伝えられることを意識しましょう。
【例文】10場面ごとのヒヤリハット報告
ここからは、介護でよくあるヒヤリハットの例文を紹介します。
場面ごとに紹介しますので、報告書をつくる際などにぜひ参考にしてください。
介護現場での「転倒・転落」の事例
出来事:お食事の前に、廊下でAさんに後ろから声をかけると、バランスを崩して転びそうになった
↓
原因:忙しくて、つい遠くから声をかけてしまった
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対策:転倒リスクがある方には後ろから声をかけない、近くに行ってから声掛けをする
出来事:朝食前、Bさんを車椅子に乗せようとすると、ベッドからずり落ちそうになり急いで車椅子へ乗せた
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原因:片手で靴を履かせようとした際に、シーツごとお尻がベッドのギリギリまでずれてしまった
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対策:転落の危険があるため無理に1人で介助せず2人で対応する、横に腰掛けて靴を履かせる
介護現場での「食事」の事例
出来事:昼食時、食堂でCさんがむせてしまい、急いで駆け寄ったが何を口にしたか分からず飲み下した
↓
原因:トイレ介助で他スタッフがいなくて、Cさんの食事の様子を見ることができなかった
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対策:誤嚥または窒息の可能性があるため、無理に飲み込まず吐き出してもらう
介護現場での「薬」の事例
出来事:夕食時、食前薬の必要なDさんに対して、薬を飲ませる前に、Eさんが食事を配膳してしまった
↓
原因:まだ食前薬を飲んでいないことを周知できていなかった、飲ませていると思い込んでいた
↓
対策:食前薬が必要な方には、テーブルの上にカードを置いておく
出来事:洗面所でFさんの歯磨きをしているとき、入れ歯の隙間に錠剤が挟まっているのを発見した
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原因:食後の薬を飲ませた後に口の中を確認しなかった
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対策:薬の紛失を防ぐためにも入れ歯を外してから薬を飲んでいただく、ピッタリと合うよう入れ歯を作り直していただく
介護現場での「入浴」の事例
出来事:洗体介助のとき、浴室でGさんにシャワーをかけると、温かいお湯ではなく冷たい水だった
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原因:前の利用者もしくは掃除のタイミングで温度が変更されていた可能性がある
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対策:シャワーをかける前に、自分の手で温度の確認をする
出来事:入浴後、脱衣室に上がったHさんがふらつきを訴えた
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原因:長く入浴していたため、血圧の変化や脱水が起きた可能性がある
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対策:入浴前後に給水をする、入浴時間は5分までとして長風呂しないように気を付ける
介護現場での「トイレ」の事例
出来事:夕方、トイレコールが鳴ったため、Iさんの介助に行ったが、隣のJさんもほぼ同時にボタンを押していて気が付かなかった
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原因:待機中に別の作業をしていたため、トイレ内のJさんの様子に気付けず対応が遅れた
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対策:待機中も気をそらさず介助に集中する、トイレ内の様子から必要そうであれば他スタッフに協力を求める
出来事:昼食後、食堂横のトイレで、普段は施設内歩行器で歩いているKさんが歩行器を使用せずにトイレから出てきた
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原因:スタッフが少ない時間帯だったためトイレに入ったことすら気づいていなかった、歩けているため認知機能の検査をせずに歩行器での自立歩行と判断していた
↓
対策:認知面も考慮して見守りの対応をとる
介護現場での「徘徊」の事例
出来事:朝食後、重度認知症のLさんが居室におらず、ラウンジかトイレだろうと思っていたら空室の部屋のベッドで寝ていた
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原因:居室に戻ろうとしたが、場所が分からなくなってしまった
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対策:重度の認知症がある方の動向には注意をする、部屋に帰ろうとしたときに迷わないよう壁に案内を掲示しておく
介護現場での「送迎、交通事故」の事例
出来事:帰りの送迎時、Mさんが自宅前で送迎車のステップを降りるときに、支えきれずゆっくりと座面の下にお尻をついた
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原因:その日のMさんの体調に考慮できていなかった、足の筋力が徐々に弱くなっていることに気付かなかった
↓
対策:後ろから降りる、補助席を使用して降りやすい座席に乗っていただく
出来事:朝の送迎中に信号のない交差点で運転していると、急に自転車が出てきて急ブレーキを踏んだ
↓
原因:いつも通る道のため、イレギュラーに対する予測ができていなかった
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対策:飛び出してくる人がいるかもしれないと予測しスピードを緩める、慣れた道であっても慎重に運転する
介護現場での「感染症、食中毒」の事例
出来事:夕食前、Nさんの部屋で冷蔵庫を開けると、家族が手作りしたおかずが入っていたが、何日前のものか分からなかったため家族に確認を取ったうえで廃棄した
↓
原因:申し送りもなく、日付けのメモもないため、いつから入っていたか分からなかった
↓
対策:食べ物をいただいた際はスタッフに伝えていただき共有する、いつのものか分かるようにメモを残す
介護現場での「紛失、破損」の事例
出来事:お昼前の食堂で、Oさんの補聴器がないことに気づき、スタッフみんなで探した結果、枕元に転がっているのを見つけた
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原因:車椅子へ移動した時に確認をしなかった
↓
対策:紛失のリスクがあるため車椅子に移動する前に確認をする、ベッドの上などに補聴器があることが分かるような印をつける
介護現場での「利用者同士のトラブル」の事例
出来事:15時ごろ、レクリエーションを行っていたら、隣同士のPさんとQさんが口論になっていた
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原因:レクリエーションの進め方をめぐって、お互いの主張を曲げなかった
↓
対策:司会進行役や席の近くを回り説明するなどスタッフの役割を明確にする、席の場所を検討する
ヒヤリハットの見つけ方
上記のような例文を見て、「そういえばこの前も同じようなことがあったな」と感じられれば、同じようなヒヤリハットを簡単に思いつくかもしれません。
しかし、安全対策担当になっていたり、部署ごとにヒヤリハットを提出するよう求められていたりする時こそ、ネタ切れになってなかなか思いつかないものです。
ヒヤリハットを見つけるときのコツは、以下の3つを意識してみると良いでしょう。
- 発生原因となるものを理解する
- 普段から危機意識を持つ
- スタッフ同士で話し合う
まずヒヤリハットの発生原因は主に3つあります。
自身の不注意や利用者の認知症状など人にある場合と、作業の手順や介護技術など方法にある場合、手すりが無いなど設備・環境にある場合が考えられます。
それぞれに焦点を当てることで、「もし自分ではなく新人が担当したら転倒させてしまったかもしれない」というように危険を予測することができるのです。
上記のように危機予測ができるようになると、普段から危機意識をもって業務を行うことが可能になるでしょう。
そのときに感じた危険をなるべくメモに残すようにすると、日常生活の中に潜む危険にも気づきやすくなります。
また、感じとった危機の内容を他のスタッフなどに話すこともオススメです。
同じように危ないと感じている人や、別の事例が出てくるかもしれません。
新たな視点に気づき、1人では気付けなかった見落としからヒヤリハットを見つけられる可能性があります。
【Q&A】よくある質問
- ヒヤリハットとインシデントは同じですか?
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ヒヤリハットとインシデントは同じ意味で使用されることもあります。
しかし、ヒヤリハットは事故が起こる前の危険性に気がつくことに対し、インシデントは危険性に気がついていない状態の出来事も含みます。
深刻さや重要性の違いで区別できるといいでしょう。 - 見落としやすいヒヤリハットはありますか?
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利用者の安全に繋がるものに目が行きがちですが、業務に支障が起きそうなことやクレームに繋がりそうなことからでもヒヤリハットが挙げられます。
例えば「事務室に入ろうとしたら中から人が出てこようとしているのに気づかず、ぶつかりそうになった」や「介助で手が離せずに電話が切れてしまった」などです。
まとめ
この記事では、ヒヤリハット報告の重要性や、介護場面ごとの例文を紹介し、ヒヤリハットの見つけ方について解説しました。
毎日の介護業務が事故なく安全に、かつ利用者も穏やかに過ごせることが望ましいです。
そのためには、ヒヤリハットのような危険だと思われる小さな気づきを増やして、重大な事故を防ぐことが大切になります。
ヒヤリハットの例文を参考にして、日頃からリスクを見つけていきましょう。
この記事が、介護現場での事故を未然に防ぐことに役立つなら、とても嬉しく思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。