この記事は以下のような悩みを持つ方にオススメです。
- 虐待を疑われて通報されたらどうなる?疑われた場合の対処法を知りたい
- 無意識のうちに虐待をしないように、未然に発生原因を解消したい
- 高齢者虐待を疑われないようにするため、できる限り対策をしておきたい
この記事では、高齢者に虐待をしているのではないかと疑われた場合の対応策をわかりやすく解説します。
近年増えている虐待のニュースを見て「虐待は良くない」「あってはならない行為」と誰もが思うことでしょう。
しかし、普段の行動や言動に配慮が欠けると、「虐待しているのでは?」と疑われてしまうこともあります。
介護職として働かれている方も、家庭内で介護されている方も、気付かぬうちに加害者になることもあり得るのです。
では、虐待を疑われた場合は、どうすればよいのでしょうか?
増える高齢者虐待
厚生労働省の虐待に関する調査によると、虐待をした人の中で自覚がなかった人は半数以上にのぼると報告されています。
このように、自身の行為が知らぬ間に虐待となってしまう場合があるのです。
2022年度介護施設での虐待相談件数は2,795件と前年度と比べて16.9%も増加し、2006年度と比較して約10倍の件数に及んでいます。
さらに、家庭内の虐待相談件数は38,291件と多く、前年度と比較しても5.3%増加しており、介護施設より約13倍も多いという結果が出ました。
高齢者虐待防止法が施行された2006年から現在までの15年あまりで、虐待の相談件数は増え続けています。
虐待をしたくて行っているわけではないのに、無意識のうちに虐待が起きてしまうのはなぜなのでしょうか?
日々の介護に追い詰められるような状態であると、つい腕を引っ張ったり、急かすように厳しい口調で言ったりしてしまうでしょう。
介護者には心当たりがなくても、周囲から虐待の疑いをかけられてしまう可能性は十分にあるということです。
虐待が起こる背景は3種類
高齢者虐待が起こってしまう理由としては、主に3つ挙げられます。
まず、1つ目には「介護疲れ・ストレス」です。
「介護疲れ・ストレス」による虐待は、虐待の理由として1番多く挙げられています。
介護は身の回りの世話で時間がとられるだけでなく、排泄や入浴など肉体的にも疲労が蓄積されやすいです。
それも休みなく毎日のように長期的に行ううちに、疲れやストレスが発散できずに溜まり、虐待に発展してしまうことがあるのでしょう。
また、介護施設では慢性的な人手不足のため、介護職員一人あたりの担当人数が増えたり少ない人数で夜勤を行ったりしています。
そのような背景もあり、介護者が疲弊して虐待につながってしまうのかもしれません。
2つ目は「介護する人の知識不足」です。
認知症や寝たきりなど介護度が高くなると、介護負担が増してきます。
介護の正解はなく十人十色であるため、長年介護をしていても思い通りにできることはほとんどありません。
認知症の病状を知っていたとしても、その対応方法まで正しく理解できていないと暴言や暴力などが行われてしまう可能性があります。
3つ目は「経済的に余裕がないこと」です。
虐待は介護者の時間的負担と比例しており、介護に携わる時間が多くなるほど増加します。
中には、介護のために休職しなければならず、今までの生活様式が変わってしまう方もいるでしょう。
そうして収入が減ったことで、将来的な不安を抱えて虐待に繋がってしまうことも少なくありません。
この3つの原因以外にも虐待をしてしまいやすい人は、熱心でまじめな性格であると言われています。
特に、家庭内はプライベートな部分が強く、閉鎖された環境です。
そのため、介護者自身も外部に相談しにくく、他者も介入しづらいという特徴があります。
どこからが虐待?
高齢者虐待とは、施設内や家庭内での65歳以上の高齢者に対する「人としての尊厳を傷つけるような行為のこと」です。
つまり、暴力を振るうことだけが虐待ではありません。
高齢者が必要とする介護を受けさせなかったり、生きている意味がないような心無い発言をしたりすることも虐待に該当します。
また、「何回叩いたら虐待」などのように決められないため、具体的な線引きが難しい問題です。
そのため、「虐待なんてしているつもりはなかった」というように自覚がなくても、周囲から見たら「あの扱いはひどい」と認識されることも。
では、どうすれば虐待と疑われることなく介護を続けていくことができるのでしょうか?
つい叩いてしまった…もし通報されたらどうなる?
日頃から丁寧な言葉遣いや配慮ができている方でも、思い通りにいかず無意識にカッとなってしまうこともあるのが介護だと思います。
忙しくて余裕がないのに理不尽な言葉をかけられたら「あなたのために一生懸命介護してるのに、どうして?」という怒りの感情が爆発してしまいそうになることもあるでしょう。
しかし、その一瞬で「日頃から虐待しているのではないか?」と通報されたらどうなってしまうのでしょうか。
〈介護施設で虐待が疑われる場合〉
- 虐待を受けたと思われる高齢者発見
- 市町村に通報
- 高齢者の安全確認・事実確認(2日以内)
- 都道府県に報告
- 立入検査、改善命令、事業停廃止など
〈家庭内で虐待が疑われる場合〉
- 虐待を受けたと思われる高齢者発見
- 市町村に通報
- 高齢者の安全確認・事実確認(即日〜2日以内)
- 地域包括支援センターとの対応策協議
- 個別ケース会議や立入調査
- 対応措置
- 警察への援助要請
- ショートステイや特別養護老人ホームへの入所
- 家庭裁判所への審判の請求
※実際に虐待が行われていた場合は、傷害罪や暴行罪、脅迫罪、詐欺罪などに問われ、刑事罰を科せられる可能性があります。
ここで注目したいのは、通報時に虐待である証拠は必要なく、虐待を受けたと思われる場合でも市町村の事実確認までは必ず行われるということです。
現在、虐待防止の観点から通報の普及啓発活動として「確かめるよりもまず知らせる・相談する」ことが推奨されています。
また、家庭内の場合は生命にかかわる緊急性が高い場合が多いため事実確認が早急に行われることが多いです。
もし通報されてしまうと、他者からも疑いの目をかけられてしまうことになり、信頼関係が崩れて今までのように介護がしづらくなってしまいます。
虐待を疑われた場合の対応策
それでは、市町村の職員や地域包括センターの方が職場または自宅に来た場合の対応策について解説します。
急なことで慌ててしまい、冷静に対応できない方も多いのではないでしょうか?
「どうして私が疑われるんですか?」「誰が通報したんですか?」などと声を荒げたり、追い返すような対応をしてしまったりすると要調査となりかねません。
対応する際に重要なポイントは以下の3つです。
まず1つ目は、虐待をやっていないとはっきりと伝えることです。
事実確認に来る職員は、決してあなたを責めに来ているのではありません。
介護する人と高齢者双方の意向を確認してくれます。
2つ目は、虐待が疑われるような行動をした経緯・背景をきちんと説明することです。
物事には必ず理由があり、支援が必要な状況が隠れています。
認知症の症状により夜間眠れていない場合や、経済的不安から心に余裕が持てないくらい1人で抱え込んでいる場合には相談してみるのがよいでしょう。
3つ目は、虐待をしていると認められたとしても、その後反省し改善への取り組みがされていることです。
例えば、認知症のある高齢者に対して暴言を吐いてしまったのであれば、認知症の介護の知識をつけて対応方法を2人以上で試行錯誤するなどです。
一人ひとりの状況によっても対応策は変わるため、必ずしもこの対応が正解だとは言い切れません。
高齢者虐待を予防するためにできること
ここまで高齢者虐待を疑われてしまった場合についてお伝えしてきましたが、できれば疑いもなく生活できた方がいいですよね。
高齢者虐待を防ぐために日頃からの行動や言動に配慮することはもちろん大切ですが、以下の3つに取り組むことをオススメします。
- ストレスコントロール
- 介護に関する知識の増加
- サービス利用による環境調整
まず1つ目に、介護疲れやストレスを減らすためのストレスコントロールが効果的です。
ストレスコントロールとは、愚痴を吐いてストレスを溜め込まないようにし、1人で抱え込まない方法です。
話しやすい人が近くにいない場合は、お住まいの地域の虐待相談窓口を利用しましょう。
「こんな場合はどうしたらいいの?」と具体的に話すことで解決策を一緒に考えてもらうことができます。
もちろん匿名相談も可能です。
2つ目として、介護に関する知識の増加についてですが、難しい参考書などを読む必要はありません。
「どのような介護が適切か?」「本当に今のやり方が正しいのか?」を確認する程度で大丈夫です。
介護に関する知識の一例として、以下の記事もぜひ参考にしてみてください。
3つ目に、サービスを利用して介護の環境を整備することも介護負担の軽減に繋がります。
実は、介護保険を適用して利用する以外にも便利なサービスはたくさん出ているのです。
あなたが1人で動き回って、全てに対応しなければいけないということはありません。
うまくサービスを利用して休養を取ることで、心に余裕ができて適切な対処ができるようになると良いですね。
→高齢者の徘徊を感知し、介護者へ通知する「パルモケア2」「パルモどっち君2」について知りたい方はこちら
【Q&A】よくある質問
- 虐待の疑いをかけられて警察に通報されてしまいました。今後逮捕されてしまうのか心配です。
どうしたら虐待の疑いがなくなりますか? -
虐待が疑われる場合、警察に通報されたとしても、まずは市町村が第一に安全確認・事実確認を行うことが規定されています。
虐待の深刻度によって対応も変わりますが、最も重い「深刻度5(生命・身体・生活に関する重大な危険)」と判断された場合は警察が介入する場合もあるでしょう。現状のままで虐待の疑いがなくなることはないでしょうが、市町村の調査への誠実な対応や今後の対応に協力的であることが重要です。
- 何度も転倒を繰り返している認知症の利用者がいて、少しでも目を離すと歩き出しまた転びます。
特に夜勤の時は他の仕事ができなくて困っています。
骨折してしまうリスクを防ぐためだとしても、ベルトで固定するなどの拘束はしてはいけないのでしょうか? -
身体の一部を縛る、またはベッド柵で囲いをするなどの身体拘束は原則禁止です。
すぐに拘束ゼロにすることは難しいかもしれませんが、本当に安全のためなのか、自分たちの責任回避のためになっていないか考えてみましょう。転倒した際の骨折リスクを低減するマットもありますので、参考にしてみてはいかがでしょうか?
まとめ
この記事では、高齢者虐待の背景と虐待を疑われた場合の対応策について解説しました。
高齢者虐待を未然に防ぐポイントは以下の3つです。
- ストレスなど日々の介護に追い詰められると高齢者虐待に発展してしまう可能性があることを知る
- もし虐待を疑われたとしても冷静に対応し、なぜそのような行動にいたったのか要因を探すこと
- 虐待を防ぐために「ストレスコントロール」「知識を増やす」「サービスの検討」が大事
もし自分が虐待を疑われてしまったら、どのように対処すればよいか分からず頭が真っ白になってしまうでしょう。
虐待の疑いをかけられてしまっても、自分には介護が向いてないのではないかと自信を失うことはありません。
一生懸命介護をしているからこそ、その信頼を維持するためにも、この記事を読んで日頃の行動や言動を振り返っていただけたらと思います。